【002】百円の恋【おすす名画】

【002】百円の恋【おすす名画】

【002】百円の恋[2014年]

百円の恋 [DVD]

三十歳過ぎたあたりから「自分には何もない」ということに気づき、何かに打ち込んだり夢中になったりと、自分磨きに精を出し始める人は少なくない。今まで何も成し遂げられなかったであろう人間が、ふと何かを成し遂げたくなる。その理由に明確なものは必要ない。

資格取得の勉強に励んだり、語学教室へ通ってみたり、ホットヨガやジム通いに熱心になってみたり、マラソンでサブフォーを目指したり、バンドを組んだり楽器を始めたり、格闘技を始めてみたり。

これは、「こじらせ系」でも「中二病要素」もないし、主人公はボクシングに打ち込むことになるがロッキーにあるようなサクセスストーリーものでもない。

主演の安藤サクラの好演にばかり評価が集まるが(もちろん安藤サクラの好演なくして本作品は成立しないが)、クソな環境で、クソな人間たちに囲ま
れていると、クソなことしか起きないということを痛々しいほどに描いている点が興味深い。主人公が働くことになる100円ショップには、目標や目的を持っていない人間ばかりが集まっている。同僚、店長、本社の人。本社の人間が「ほんとロクなヤツがいねぇな」と何度も口にするのだが、口にしている本社の人間も含めて。本当にロクなヤツがいない。

そんなロクでもない環境で、主人公含めたロクでもない男女がいびつに恋をして、何か=ボクシングに打ち込んでいくという話だ。

個人的には、ボクサーの男が風邪をひいたイチコに肉を焼いて食わせるそのシーンで、遅れてきた春とでもいおうか人の温かさに触れたイチコの心情の描写に、この映画の肝を見た気がしている。

人生において、恋であったり、ボクシングであったり、何かに夢中になったりするのに、遅すぎるということはないのかも知れない。

【あらすじ】
32歳の一子は実家にひきこもり、自堕落な日々を送っていた。ある日離婚し、子連れで実家に帰ってきた妹の二三子と同居をはじめるが折り合いが悪くなり、しょうがなく家を出て一人暮らしを始める。夜な夜な買い食いしていた百円ショップで深夜労働にありつくが、そこは底辺の人間たちの巣窟だった。心に問題を抱えた店員たちとの生活を送る一子は、帰り道にあるボクシングジムで、一人でストイックに練習する中年ボクサー・狩野(新井浩文)を覗き見することが唯一の楽しみとなっていた。ある夜、そのボクサー・祐二が百円ショップに客としてやってくる。狩野がバナナを忘れていったことをきっかけに2人は距離を縮めていく。なんとなく一緒に住み始め、体を重ねるうちに、一子の中で何かが変わり始める。
一方、祐二はボクサーとしての定年を前に最後の試合に臨み惨敗を喫し自暴自棄になって家を出ていってしまう。残された一子は、なぜか自らボクシングを始める。痣だらけになりながらもそこに仄かな希望を見い出していく―。

2016.05.02

【キャスト】
安藤サクラ 新井浩文
稲川実代子 早織 宇野祥平 坂田聡 沖田裕樹
吉村界人 松浦慎一郎 伊藤洋三郎 重松収 根岸季衣

【スタッフ】
監督:武正晴
脚本:足立紳(「第一回松田優作賞」グランプリ受賞作)
音楽:海田庄吾
主題歌:クリープハイプ「百八円の恋」(ユニバーサルミュージック)
企画協力:セントラル・アーツ オフィス作 ブレス
製作プロダクション:スタジオブルー
製作:東映ビデオ


ads by google