【010】チェーン・ポイズン 本多孝好
- 2019.08.30
- 読書

【010】チェーン・ポイズン 本多孝好
=あらすじ=
「本当に死ぬ気なら、1年待ちませんか?1年頑張ったご褒美を差し上げます」
一年我慢すれば何の苦痛もない、煩わしさもない、一瞬で楽に眠るように死ねる手段をくれるとその人は言った。死への憧れを抱いていた
「私」にとって、それは決して悪い取引ではないように思われた。
人気絶頂のバイオリニスト如月俊、陰惨な事件の被害者家族である持田和夫、三十代のOL高野章子。この三人の自殺に奇妙な共通点を見つけた雑誌記者・原田は独自で事件を追い始める。やがてたどり着いた真相とは。
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物語は三十代OLの「私」が自殺するその日までを描く視点、かたや三人の自殺に共通点を見出した雑誌記者の原田の視点、この二つの視点で成り立っている。過去から現在までをさかのぼる女性と、現在から過去をあらう記者。
死ぬ決意をした女性の前に「死のセールスマン」が訪れる。言われるがままに、女性は自殺を一年待つことにする。保険に入り一年後に自殺することにしたのだ。しかも、一年我慢すれば何の苦痛もない、煩わしさもない、一瞬で楽に眠るように死ねる手段をご褒美にくれるというのだから。女性は、仕事を辞め、どういうわけか成り行きで養護施設でボランティアをすることになる。養護施設での園長、若い工藤、健気な少年少女に囲まれながらも、女性は死へのカウントダウンを始める。死へ向かっていたベクトルはそう簡単に生へは向かわない。その死への決意の固さは相当なものだった。
一方、記者原田は仕事でインタビューをした対象者二人がアルカロイド系服毒自殺をしたことで、三人目の自殺者高野章子へ興味を持ち出す。高野章子がどんな人間だったのか。そして、三人を探るうちに気づいた答えとは。「死のセールスマン」の尻尾はつかめるのか?
女性が、養護施設で働くうちに「生」への未練がじわじわと芽生えだす。その自然な描写が秀逸でした。せっかく「目的」「やり甲斐」そして何よりも「居場所」を見つけたのだから、死ぬのはよしなよと口出ししたくもなる。生へ向けて、背中を押してあげたくなる。そこまで感情移入させる、何かを、主人公の女性は持ってますね。
そして、トリックにより読者はおおいに騙される。
素晴らしい!
読後の清々しさも、なかなかのものです。
2019.08.30
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