【002】望郷 湊かなえ【だからわたしは本を読む】

【002】望郷 湊かなえ【だからわたしは本を読む】

【002】望郷 湊かなえ

望郷 (文春文庫)

湊かなえの「望郷」は「みかんの花」、「海の星」、「夢の国」、「雲の糸」、「石の十字架」、「光の航路」、の6編からなる連作小説集。舞台はすべて同じひとつの島。印象としては長編の「母性」にも出てきたような、窮屈な家庭環境や封建的な社会、閉鎖的なコミュニティで暮らす人々が描かれていたように感じた。世界があまりにも狭すぎて、古くからの習わしや常識とされるものに疑問を抱いたとしても決して抗うことはない。ちっぽけな世界での常識は、大きな世界にでてみれば非常識にあたるかも知れないのに、それが非常識なのかどうかもわからずに過ごしている。

ある種、いじめで悩む少年少女も、このような閉塞的な環境に置かれているのだろうか、と感じた。「光の航路」という一編にでてくるいじめという言葉がよくないのだと主張してるところは思わず頷いた。いじめというから加害者側も傍観者もことの重大さに気付けないのかもしれない。あれは、暴力、暴行、傷害、誹謗中傷、窃盗、器物破損、そういった罪名がふさわしい。

いじめで悩む人たちが読んだら、ちっぽけな世界にこだわる必要がないことに気付ける一冊になるのではないかと思う。

「夢の国」で祖母の顔色をうかがいすぎてドリームランドへ行けなかった話などでも島を出ていきたくてたまらない子供たちと、島を出ていくという選択肢すら持たない大人たちが描かれている。島は社会であったり、学校であったり、職場であったり、人間関係であったりに置き換えることが可能だ。

島で起きる6つのちっぽけなコミュニティを覗いてみれば、きっと救済のヒントが見つかるはずだ。

2016.05.10

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